観察せよ「オブラ・ディン号の帰港」

イングランド、ファルマス沖。ぬるい風に大粒の雨。嵐の気配。

保険調査官うらしまは途方に暮れていた。調べられるところは全て調べ、得られる情報は全て得た。そのはずなのに、手にした真実はほんのひと摘みだけ。

いったいここには誰がいて、彼らはどのような結末を迎えたのだろう。謎と死に満ちた、この「オブラ・ディン号」で…。

概要

といったカンジの高難度…少なくとも自分にとっては高難度だった謎解きゲームです。

プレイヤーは保険調査官となり、4年前に失踪していたオブラ・ディン号の乗客60人の顔と名前を一致させ、彼らがどのような結末を迎えたのかを調べ上げるのが目的。なんか地味だけど初めての経験に惹かれてしまった。

しかし現在この船に残っているのはほんの僅かな白骨死体くらいのもの。こんな状態の船で保険の調査なんかしようと思う奴も思う奴だが、調査へ向かわせる方も向かわせる方だ。そんなの無理に決まってる。よくわからんが全員死亡!じゃダメなのか。


そんな無謀なチャレンジを助けてくれる二つのアイテムがゲームのキモ

ひとつは上のスクショで手にしている魔法の懐中時計「メメント・モーテム」。名前がイカしすぎているこの時計は死体の近くで使うとその力を示し…。
その死体が死体となった瞬間のビジョンを見る事ができるのだ!

しかもその「瞬間」を自由に動き回ってあらゆる角度から観察可能!ビジョンの中に死体があればそこからもビジョンを得られる!オマケに死の数秒前の音声まで聞ける!

なんだこのイカした能力。時間を操る類の力はだいたい何でもカッコいいけど、その中でもトップクラスにクールなパワーだ。メメント・モーテムを模したファングッズが欲しい。

あとは乗組員全員が名札をつけてくれてさえいればアッという間に顔と名前が一致したのだろうけど。そんなゲームだったらわざわざ感想書こうとか思わないよね。
もうひとつは、なぜかオブラ・ディン号で起きたことのあらましを知っているっぽい謎の人物、ヘンリー・エバンズから託された手記だ。

手記とはいってもコレに書かれていることといえば乗組員名簿と航海図、ちょっとした用語集くらいで、それ以外はなんとほぼ白紙!

この不完全極まる、もはや手記とも呼べない手記は、プレイヤーが死体を調べるたびにそこで発せられた声と、死の様子、死体の場所、画家が書いたという乗組員の絵なんかを記録していくことで自動的に埋められていく。

どういうわけか全10章に章立てられていてそれぞれにタイトルがついており、事切れた時間がバラバラの死体たちを時系列ごとにキッチリ並べてくれる機能を持ち、死体を発見できなかった乗員は失踪者として章ごとにまとめられる。

あとはプレイヤーが乗員の名前と顛末をチョチョイと記入しさえすれば立派な「オブラ・ディン号の帰港 ~その航海と悲劇の記録~」の完成となる。

ね、簡単でしょ?

よいとこ

さてさてようやくここまで来た。ここを書きたくてしょうがなかった。


まずはどこから行こう。そうだな、何と言っても探偵してる感がバツグンにイイ!

このゲームにはかつてオブラ・ディン号であった物語を解き明かす要素はあっても、調査中に展開するストーリーはほとんどゼロ。コレによって黙々と調査に打ち込めるんだよね。余分なものは何もなく、ただただ目の前の謎にだけ向き合っていればいいから没入感が違う。

それと大半の推理ゲームがそうだと思うんだけど、画面上の怪しいところをタッチすると調べた結果が出てくるヤツ、あるでしょ?それすら無いのがスゴい。何かに気づくのはゲーム内のキャラクターではなくて自分自身なのだ。それがまた探偵してる感に拍車をかけるってワケ。

以前J.B.ハロルドシリーズで体感したような情報を足で稼ぐ感覚もありつつ、ストーリー展開に依らず能動的に捜査ができて、ややもすれば地味になりすぎそうなところをメメント・モーテムが彩ってくれて退屈しない。心ゆくまで探偵ごっこを楽しめました。

ただ、このゲームの目的は犯人探しじゃあなくってあくまでも保険の調査なので、最悪「安否不明」のままでも終わろうと思えば終われるのもちょっと面白い。全貌を解明するには全部埋める必要があるけどね。


それとヒントの絶妙さも挙げておきたいな。

ここでほんの少し、ごくわずかな、ヒントとは言えないようなアドバイスを匂わせただけでもバランスが崩れてしまいそうなほど繊細なものに感じました。

そんなヒントも気づいてしまえばいつも見ていた場所にドンと置いてあるものばかりで、見つけた時の膝の打ちっぷりったらもう、山川穂高のフルスイングめいてバチーンといっちまうこと請け合い。

気持ちよくなれるヒントだらけなモンだからついもう一問、あとコイツの名前だけ、そうやってるうちに朝なんだよね。


システム面では3問正解ごとに答え合わせっていうのが気に入りました。

このゲームは究極的には名前と顛末を候補の中から当てはめていくだけのものだから、コレがもし正しい組み合わせがハマった瞬間に成否の判定がされていたら、暫定的にはめ込んでいたものがたまたま正解しちゃってなんか冷める、みたいなことが多々あったでしょう。

かといって最後の最後まで一切の成否判定が無ければ、それはもうゲームではなく刑事の仕事でしかなくって、ゲーム的な気持ちよさが失われ、大きな不安を抱えながらのプレイになっていたに違いありません。

3問正解で成否判定、コレが絶妙なライン。山勘だけでは当たらず、でもごくまれに当たり、一方でいい具合に不安を解消し、モチベーションが高まる。自信のあった推理が外れていた事もやんわりと教えてくれる。めっちゃ外した。


あと最後に、グラフィックがもう最高。

点描っぽいモノクロの3Dなんて初めて見たもんで、特別なものを見せてもらってる贅沢感がありました。世界観にもマッチしているし、凄惨な死にっぷりもあんまりグロくないからお子様にも安心。

きになるとこ

正直なところ、私個人の好みに大きく関わるある1点以外に大きな不満はありません。

その1点というのは、このゲームに怪物が出ることです。しかも死因にまで深く関わってくる。この点だけは最初は強い拒絶反応が出ました。怪物が出る必然性が無いゲームにわざわざ怪物を出してくるのが凄くイヤなんだよね。

ただ、このゲームに関していえばそもそもキーアイテムであるメメント・モーテムがファンタスティックだし、怪物の種類にしても、いかにも北欧の伝承にありそうなものってこともあってギリギリ許容できました。


あ、それと、もしかしたら最後が軟着陸で物足りないっていう人もいるかも。とある人物の行動を飲み込めなかったりね。それでもいいカンジの幕切れだったと思うな。

おわり

推理小説の主人公に憧れる人にはうってつけのゲームです。

かく言う自分も嫌いじゃない方なので、プレイ後の充足感はたまらないものがありました。舞台は鉄板のクローズドサークル、絡み合う人間関係、観察力と推理力を試されるゲーム性、その全てが灰色の脳細胞をビンビンに刺激します。

自分はこのゲームを遊んでいて、とある古い推理小説の一節が浮かびました。

真実は絶えず表層に存在する。

我こそはデュパンであるという観察眼の持ち主には是非とも遊んでいただきたい。人生でたった一度限りのこの快感、充足感、どうか味わえますように。続編出ないかな。


ちなみに自分は完全クリアまで14時間27分もかかりました。賢くなくても賢い気分にはなれます。

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