少年は学年に一人はいるオールドゲームファンの導きによって一冊の本に出会う。かつて一斉を風靡したというゲームブック「火吹山の魔法使い」だ。少年はあっという間にその魅力に飲み込まれ、ることは無く、緑の怪物が赤ん坊を運ぶゲームに夢中だったので次第にその本のことは忘れ去られていった。
時は経ち、青年はテーブルトークRPGに精を出していた。ご多分に漏れずダブルクロスやシノビガミを遊んでいるその横の卓でたびたび見かけたのがボードゲームのようなRPG、それはダンジョンズ&ドラゴンズやファイティング・ファンタジーであった。
豊富なタイルや駒を使って遊ぶゲームに憧れを抱き始めていたそんな折、青年は再びあの本に出会います。ファイティング・ファンタジーシリーズの始祖たるゲームブック「火吹山の魔法使い」に!
かくして青年はゲームブックの世界に足を踏み込む、ことはなく、やっぱりRPGの方が面白いなというコトになり、その本のことはあっという間に忘れ去られていった。
そして現在。度重なるスルーに怒り狂った火吹山の魔法使いはデジタルの世界に恐るべき迷宮を生み出し、ついにかつての少年を胸躍る絶望の冒険へと旅立たせたのであった!
前置き長すぎたな。
デジタルゲームのアナログな手触り
このゲームに関しては概要を書く必要は全く無いね、ゲームブック「火吹山の魔法使い」のビデオゲームバージョンだ。
ゲームブックってのは、書かれていることに従って選択肢を選んだりダイスを振ったりするだけで一人でもテーブルトークRPG気分が楽しめちゃうというぼっ、ソロプレイヤーに優しい本のこと。こういうゲームを踏まえてウィザードリィとかドラゴンクエストみたいなコンピューターRPGが作られていくワケだから、このゲーム自体がビデオゲームになるのはある意味で自然な事だったのかもね。
それで実際にどんな仕上がりになっているのかというと、まぁ原作をロクにやってないからどれくらい忠実なのかはわかんないんだけどね、やっぱりグラフィックがあるのはイイ!RPGやってる感が高まるわ!って思いました。ウィザードリィが世に出たときのゲーマーも同じことを思ったんだろうな。
その絵作りも実にオールドゲームっぽくてね、デセントっていうめちゃくちゃ難しいボードゲームみたいな雰囲気がこのゲームにピッタリ。で、雰囲気は大いに出しつつも描き込みすぎず、あくまでもテキストの補助に徹しているような作りもセンスがいい。
サウンドも環境音を取り入れたBGMに心地いい効果音と、クラシカルなファンタジーゲームといった佇まいがあって文句なし。世界観の作り方には非の打ち所がないよ。
予測不能な迷宮探索
このゲームには小手先のテクニックは一切必要ない。ラスボスまでたどり着けても2時間程度、その間にあなたがすることは選択だけ。1に選択2に選択、3に選択だ。
道が分岐している、さぁどっちに行こう。部屋に入ったらオークが迫ってきている!身を隠すか、戦うか、それとも手持ちのアイテムでどうにかならないか。その先では何やらイイ感じの箱が置いてあるが…開けちゃう?余計なリスクは避けようか?
これらの選択に失敗すると最悪それだけで死ぬから気が抜けない。そんなイベントが2時間ミッチリ続くワケだが、それでも一周で回収できるものは20%も無いんじゃないかな。
それくらい様々なルートと選択が用意されていて、それはキャラクターごとのスキルやステータス、その時に持っているアイテムによっても変わり、さらにダイスロールによる運まで絡んでくるから冒険はいつでも予測不能。周回プレイを促進されます。たった一冊の本なのに何度読んでも違う話になるって凄いよね、そりゃあ一世を風靡するワケだ。
そうそう、ゲットするアイテムについて詳しい説明が特に無いっていうのがまたリアルな冒険感があっていいんだよ〜!このアミュレットってどんな効果があるのかな?この鍵ってどこの鍵かな?果たしてそれを知って無事でいられるかな?
独特でスリリングな戦闘
そんな感じで迷宮を探索すること自体がもう面白いんだけど、自分が特に推したいのは戦闘!これがまたビジュアルの時点でかなり凝っていて、個々の戦闘ごとに異なる小物が配置されてるところにコダワリを感じる。あまりリアルなフィールドにしすぎずにあえてパネルを目立たせているのもアナログゲーム感を引き立たせるいい演出だよね。敵と自分が駒になってボードの上で戦うのはゲームブックでの戦闘とは明らかに違うものだけど、この変更は大正解だって思うな。
ダイスの目と技術点で攻撃の成否を決めるシステムは継承しつつ、新たに「移動」と「戦闘スキル」というシステムを入れてきたのが面白い。
しかも敵と自分の選択が同時に処理されるっていうのが最高!相手が移動しそうだからその先に攻撃を置いておこうかなとか、今殴り合うのは危険だから一歩下がっておこうとか、そういう読みの緊張感がたまらないんだよね!
敵の攻撃方法も遠距離攻撃を持っている奴もいれば範囲攻撃をしてくる奴、毒を使ってくる奴、タックルしかしない奴と実に様々。そこに個々の移動パターンも噛み合ってくるから最初はどの戦闘もかなり苦労するんだけど、何度も周回してパターンを把握してくるとこれがまたパズルめいてきて楽しい。この戦闘にポケモンのガワでも着せてスマホアプリにしたらチマタを席巻すること間違いなし。
あとね、このゲームは戦闘で受けたダメージを回復する手段がかなり限られています。迷宮のどこかにあるベンチ(回復ポイント)を探すか、高価なポーションを使うか、幸運なイベントを待つかしかないんですよ。
これがまた緊張感を煽る煽る!もちろん探索中にも体力はもちろん技術や運にダメージを受けることもあってこれが戦闘にも影響してくるモンだからさらに煽る煽る!緊張感が途切れるヒマを与えてもらえません。本当に凄い冒険体験だよ!美麗なグラフィックが無くてもここまで出来るものかと目からウロコ!
デジタル化の恩恵
ゲームとして面白いだけじゃなくって、デジタル化したからといって本に負けないぞ!むしろ上回ってやるぞ!という気概がビンビンに感じられる。本の強みとして1番にあげられる点として、面倒な戦闘やイベントをズルして飛ばして先に進めちゃおう!みたいなことが出来るってのがあると思うんだよね。今作はそれのカバーも抜かりなし、ただただ本を読むだけのフリーリードモードを搭載しているぞ。
Switchなので持ち運びも簡単。ページをめくったりダイスを振ったり計算したりといった面倒な作業は全部Switchがやってくれるからラクチン。原作の代替え品として不足なしだ。
さらにファイティング・ファンタジーシリーズの歴史を知れる資料があったり、進化した戦闘を重点的に楽しめるガントレットモードがあったりとなんとも欲張りな作り。原作の挿絵もカラーで見れちゃうし、じっくり鑑賞することも出来ちゃう。
そんなこんなで全体として見ても本当に面白い。不満といえば細かな操作説明が無いこととローディングが長いことくらい。歴史的名作を存分に楽しめて満足感がすごく高い、是非ともオススメしたい逸品です。
ホントただ一つ、この一点だけを除けば。
400
ゲームブックの命、それは文章に他なりません。だからこそ翻訳にだけは力を入れて欲しいところだったんだけど、この願いが叶うことはありませんでした。あまりにも酷いデキです。上記の画像のようなメチャクチャな文章もあれば…
「ネズミの姿で俺に攻撃するとは。きっと死ぬだろう…だめだああああ!」
「ゾンビのこの場所は恐ろしく衰弱させる。俺の32の殺した生き物の合計もすごく残念だ。もっとうまくできたのに。」
「あの小さな姿はすごく小さなゴブリンに見える!」
セリフはこんなカンジ。何を言うてますの?謙虚なナイトか?
コレだけじゃないんですよ。表記ぶれもあるわ、誤字脱字もあるわ、そもそも翻訳されていない箇所もあるわ。
ず〜っと文章を読むゲームだからこの不満は最初から最後まで付きまといます。そしてコレを読まなきゃ始まらないのがただただストレス。選択を求められても何を問われているのか分からない時なんかもう英語のままの方が辞書を引けるだけマシだと思ったね。
本当にココだけ!ココだけどうにかならないだろうか。もうローディングが遅いとかどうでもいい、デジタル化の利点を生かして文章をアップデートできないだろうか。
アナログな雰囲気の演出がとにかくうまく、それでいてノスタルジーに頼っているワケでも無く、ただひたすらに冒険が楽しい。スリリングで、好奇心をガンガンに煽られて、何周でもプレイしたくなる。間違いなく傑作なんですよ。
だからこそこの雑な翻訳が許しがたい。スティーブ・ジャクソンとイアン・リビングストンが日本語に精通していたらこの日本語版を世に出すことは決して許さなかったでしょう。
もしもココさえマトモなら、そう思うと腹が立ってきた。どうしてこんな事を書いているんだろう。これは無意味だ。
——何かおかしなことが君に起こっているようだ。きみの怒りとストレスが増す。
運 -1!
アラン・ゴットスピードの冒険
気分が乗っているのでプチプレイ日記を書きます。最初に選んだ冒険者は二刀流の戦士、アラン・ゴットスピード。彼の前には不気味な洞窟が口を開け、その奥の迷宮へと誘っている。
やはり未知のダンジョンに挑むために必要なのは何より体力!戦闘で決め手になる技も結構高い!名前がカッコいい!そんな理由で選びました。そのときにはよく分かっていなかったんだけど、実際に使ってみると戦闘時の技が全て安定して2ダメージ以上なのが使いやすくって初心者向けだったのかも。
しかし彼には弱点があった。文字が読めないのだ。
何もかもが未知の迷宮で文字さえも味方にすることができない。信じられるのは武力だけ。多少のトラブルは戦闘の強さで乗り越えてみせよう。
それでは冒険開始。
すると早速ゴットスピードが迷宮に挑む理由が明らかになった。彼は魔物と戦う事をトレーニングとしか思っていない。想像の上を行く脳筋だ。
そうとわかれば自分もそういうロールプレイをした方がいいだろうということで、眠っている見張りをわざわざ起こして倒し、鎖につながれている番犬も倒し、酔っ払ってマトモに戦えないゴブリンを倒してズンズン進んでいきました。ゴットスピードはことあるごとに今までに倒した敵の数をカウントし、その満足度を発表してくれるのでどんどん戦いたくなりますね。
こうして血を浴び続けるうちにプレイヤーである自分もだんだんゴットスピードに感染していきました。
ドアというドアは全て開け、戦闘のニオイを嗅ぎつければそうなるような選択をして、それに勝つ。ゴットスピードは強かった。前にも斜めにもソツなく攻撃できて、必殺の「刀の嵐」と「チャージング・ツイン・ストライク」をうまく使えた時はアドレナリンが吹き出した。
次の戦いを求めて迷宮をさまよい続けることが快感になっていく。
俺は強い、もっと戦いを、オークハントを。
そんな彼が苦しんだのはフィールド上の仕掛けでした。
運があまり高くないのでそれが絡むダイスロールにはちょくちょく失敗。部屋を漁っているときには手を出してはいけないものに手を出して技術を削られ、深傷を負った状態で罠にかかって死に、一撃死する選択肢にもひっかかってあっという間にラスト1機に。
これには文字が読めないことも結構影響してたんじゃないかな〜。看板が読めなくて余計なダイスロールをするハメになったり、ラベルが読めなくてポーションっぽい液体の入ったビンを手放したりもしてたし。宝の地図みたいな紙を捨てちゃったのもゴットスピードの悪いところが出てたね。
不思議な空間に広がる迷宮の奥深く、そこに潜んでいたのはおそるべき怪物ミノタウロスだ!ゴットスピードは奴を見るなり大興奮。
「かかってこい、獣!」武器を振り回しながらうなりをあげて戦いに挑むが、度重なる戦闘によって体力は既に5しかない。自慢の技術も上回られて当たり負けして残りは2、いよいよ絶体絶命だ。
しかし俺はゴットスピード!戦いに愛された戦士ゴットスピードだ!
絶体絶命の状況を必殺「チャージング・ツイン・ストライク」で脱出すると、そこからはミノタウロスの動きを観察&看破!奴の大技の隙をついてダメージを積み重ねてついにはこの巨大な魔物を斬り伏せたのだった!
ゴットスピードはうなり声をあげて倒れたミノタウロスが息を引き取るのを確認すると、刃の血を拭ってこう語る。
「まったくこれはチャンピオンに値する戦いだった!突撃を避けるのが鍵だった。スクムウィット男爵の悪行の穴にしっかり備えることにしよう。」
こうして強大な敵をも退けたゴットスピードに勝てる敵などこの迷宮には存在しないだろう。
しかし、彼は突如として命を落とす。それは重傷を負っている彼が未知の敵ゴーストハンドとの遭遇を避けようと駆け出し、それに失敗したことが原因だった。
こうして勇しき戦士ゴットスピードの冒険は幕を下ろす。最後まで戦闘では無敗だった彼の死因はすべてフィールド上のイベント。最後の死は初めて戦闘を避けようとしたその瞬間だった。なんとも因果なことじゃないか。
だがもしも、もしも闇雲に戦闘を仕掛けていなかったら。もしも危険な選択肢に気づけていたら。もしも、文字が読めていたら…。
そうさ、冒険は終わらない。ゴットスピードで得た経験を次に活かそう。
戦闘狂ゴットスピードが魂を荒稼ぎしてくれたので新キャラを解放、今度は教養があって鋭い目つきを持った遊牧民クレア・ダツラの冒険が始まる。
彼なら無用な危険に近寄ることもないだろう。体力は下がるが技術はゴットスピードを上回る。そして何より文字が読める。ゴットスピードが放置したポーションや宝の地図らしき紙はいったい何だったんだろう。
戦う遊牧民クレア・ダツラ、彼の前には不気味な洞窟が口を開け、その奥の迷宮へと誘っている。
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