家政婦は予知夢を見た!人が死なないマーダーミステリー「ゴシックマーダー」

最も良いミステリーの舞台は洋館である。
その場合、捜査手法は洗練されていないとより良い。

これはかの無名な自分が残した言葉です、ズバリそれっぽかったのでやってみました。お手頃価格でそのへんが楽しめればいいかな〜って気持ちで買ったんだけどね、このゲームはもしかしたらもしかするぞ!

シンプル&スタンダード

ゴシックマーダーはシンプルで、それでいて土台がキッチリ整ったゲームでした。

ストーリーを読み進めつつ探索パートを経て追及パートという流行りの展開はやはり鉄板。変にアクションっぽい要素は無く、妙ちきりんな捜査手法も無く、キャラ同士の茶番をひたすら見せ付けられることもほとんど無い。

物語の中で謎が提示されてそれを解く、そんな推理ゲームに求めている事をひたすらやらせてくれるピュアなゲームです。こういう推理ゲームって意外と少ないんだよね。

さらにバックログ・オート・スキップ・チャプターも当然のように備えていて、所持品や登場人物は常に確認できて、オートセーブが細かいおかげでやり直しも簡単で、しかも今覚えておくべきことは勝手にメモを取ってくれる。画面をタッチして操作する事も可能で、メッセージ速度やウインドウの背景色の濃さ、効果音の音量まで細かく変更できて快適なことこの上ない。こういうところがちゃんとしててくれるとストレス無く遊べるんだよね~。


それで実際に遊んでみると、探索は調べる箇所は決まっているし追及の際の証拠や選択肢の数も多くはないので難易度はやや低め。ただ謎はテンポよく沸き続けるから退屈することは無い。登場人物もしっかりと全員が怪しくって、黒幕は最後までわからないんじゃないかな。オチもちゃんと納得できるものが用意されていたので安心して遊んでほしい。


あとね、舞台が貴族の屋敷で当主がイケメンでメイド少女が主人公となればロマンチックな展開もあるワケですよ。当たり前だよね。無けりゃ暴動だよね。しかも出てくる男が揃いも揃って男前な上に正統派イケメン貴族、黒髪俺様系男子、枯れおじ執事などなどバリエーションに富んでいるので女子は買うべし。

ただそれでもそっち側に転がりすぎずにあくまでも本筋のサスペンスを貫いてくれてるバランス感覚が嬉しいところ。事件以外でもドキドキできるオマケ的な要素として楽しもう。ちなみに女子はほとんどがメイドちゃんです。

予知夢

このゲームを語る上で「予知夢」は外せない!

上でも書いたようにこのゲームってかなりシンプルでスタンダードな感じの作りになってまして、そうなると独自性みたいなところが弱くなりそうなものなんだけれど、これによって独特のプレイ感覚を味わえるんですよ。

ちょっとまって、超能力はカンベンだって敬遠しないで。コレにはちゃんと意味があるんです。


たとえばさ、コロンボとか古畑任三郎だと最初に犯人がわかるでしょ?ただもちろんそれは主人公たちは知らなくて、視聴者だけが知っているワケ。

この手法を採ると危険が近づいてくる実感を強く感じられたり犯人の動向にハラハラできたりして楽しいんだけれど、一方で見てる側と主人公の間の情報格差が大きくてどうしても遠く感じちゃったりするんだよね。だから映像作品ならまだしもゲームでやられると他人事みたいな感じが強くなっちゃう点はどうも良くない。

その点でゴシックマーダーの予知夢は犯人はわからないけど死の光景だけがわかって、それを主人公も知っているというのがキモ。スタンダードなタイプとコロンボタイプのハイブリッドだ。

危機が迫ってくる実感は残しながらもそれがどこから来るのかはわからず、その危機をプレイヤーと主人公が一緒に感じて同じ目線で推理ができる。この感覚がなかなか独特で、しかもゲームというプラットフォームにピッタリなのよ。

つまり予知夢はコロンボタイプの面白さを取り入れながらも主人公と秘密を共有してシンクロ感を出すためのギミックになってるってこと。うまいとこ突いてきてるよ~コレは。


予知夢を見ることで面白くなってるところは他にもあって、主人公は死の予知夢を現実にしないことを目的にしているので、このゲームはマーダーミステリーなのに人が死にません。

人が死なないことの何が面白いのかというとですね、すなわちミスったら人が死ぬってコトですよ。常に死ぬ。確実に死ぬ。このスリルよ!犯人を取り逃しました。残念でした。だけじゃ済まない。人の命がかかってんねんで!

死の気配がずっとつきまとうからホラーゲームのような味わいもあっていつもハラハラ、話が進むほどに死の光景に至るまでの時間制限を感じてこれにもハラハラ。

そんなカンジで予知夢によってもたらされる面白さって結構多いのよ。予知能力といってもファイナルデスティネーションみたいに強力なやつじゃないほんのささやかなものだからミステリーに超常現象を組み込まれることにアレルギーがあっても飲み込めるはず。これは一度体感してほしいな。

シュールギャグ?

これは狙ってやってるのかわからないんだけど、雰囲気がシリアスかつロマンチックであり続ける中でなんだかシュールな笑いがあるんです。

たとえば物語の軸であり予知夢で死を予見されまくるアーヴィング様なんだけど、この人がまぁ~死ぬ。主人公がミスをすると待ってましたとばかりに死ぬ。

ミスると人が死ぬからハラハラするとか言った舌の根の乾かぬうちにこんなこと言うのもアレだけどね、あまりにもカンタンに死んじゃうもんだからフとした瞬間になんだか笑えてきちゃうんだよね。

まぁその儚さが庇護欲かきたててくれて盛り上がるっていう面もあるんだけど、もしかしたらキャラ同士のおちゃらけた掛け合いで世界観を壊さないようにしてる代わりにこういう手法で笑いを取りに来てるのかなって思いました。
あと主人公のエリーもなかなかどうして。

彼女はこんな大人しそうな顔して杉下右京の前世だよと言われても納得の好奇心と洞察力を持っています。頼もしいね!

だけど、それは彼女が探偵や刑事だった場合のハナシ。残念ながら彼女はメイド、主人やそのお客様のために影でそっとご奉仕することを求められる存在であり、ざんねんながらその洞察力や推理力を発揮する場はありません。本来は。

しかしこのエリー、石崎秋子がモデルだよと言われても納得できる野次馬根性を備えていた!

それは自身でも自覚していて最初のうちは遠慮がちに捜査をしているのですが、話が進んで当主様の後ろ盾を得るともう止まらない。内なる市原悦子を抑えきれません。この暴走っぷりがまた笑いを誘うんだよね。

でもその本能に忠実なところとかアーヴィング様のためならなんでもしちゃうっていう姿勢はなんとも可愛らしい。可愛くて笑えるって最高じゃない?

なんだか安い

とまぁこんな具合で全体として大きな文句はない今作なのですが、ちょっとだけ注文を付けさせてもらうとすれば、それはなんだか全体的にチープってこと。

まぁ価格が安いからしょうがないっちゃあしょうがないんだけど、それにしたって我こそは元スマホゲームでございってカンジの安っぽさがかなり目立ちます。舞台は貴族の屋敷なのに。

イラストとか背景は概ねキレイなんだけど立ち絵の差分も少ないし一枚絵も少ない。演出も安っぽいし、もっと言えばサブタイトルめいた「運命を変えるアドベンチャー」っていう一文も安っぽい。

物語が少し駆け足気味だったりキャラクターの掘り下げが少なめだったりするのもしょうがないかなって気持ちもあるんだけれど、もうちょっとだけね、ゲームの雰囲気に合うだけのリッチさは欲しかったなと思いました。


あぁ!あともうひとつだけ。ゲームオーバーになるとタイトル画面に戻るのですが、そのときにNEW GAMEが一番上にあってしかもカーソルが合っているのが嫌でした。神宮寺シリーズからそうだよね。

今作はこまめにオートセーブしてくれるのが仇となって、それを選んだが最後オートセーブが上書きされてチャプターからやりなおし。そんなスリルはいらない。他は隅々まで行き届いてるだけに気になりました。

おわり

元スマホ向けということもあってか若干の荒削り感と演出面の弱さはあるけどしっかりと形にはなっています。

なかでも遊びやすさは一線級。予知夢がもたらす面白さも他では味わえないものでキャラクターも魅力的。神宮寺三郎を手掛けていただけ合って物語の流れもキレイなら絵もキレイだし音楽もちょうどいい。

だからね、これだけ素材がいいんだから、ちょっと磨けばもっともっとも〜っと光るよコレ!

orangeさんはコンシューマ向けで作る気は無いのかもしれないけど、もっとたっぷりとストーリーを書き込んでたっぷりとキャラクターを掘り下げて、あとは見てくれの良さだけゴージャスにしてくれたら一気に化けそうな気がするんだよな〜。

なんにせよこれっきりで終わらせるのはもったいなすぎる。開発者もそれを感じてるハズ。きっと2〜3年のうちにカンペキなゴシックマーダーを見せてくれるハズ。供給不足の推理ゲーム業界に旋風を巻き起こしてくれるハズ。

だから見逃すな!令和の神宮寺三郎や逆転裁判になりえるゲームの第一歩を!

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